加熱式タバコに替えれば歯ぐきは安心か——名古屋市昭和区の歯周病専門医が研究データから解説
加熱式タバコに切り替えれば、歯ぐきへの影響は少なくなるのでしょうか。
現時点では、加熱式タバコに替えることで歯周病のリスクが下がる、あるいは歯周治療の結果が良くなると判断できるだけの科学的根拠は十分ではありません。一方、禁煙については、歯周病の発症や進行のリスク低下を支持する研究があります。
今回は、国内外の研究をもとに、加熱式タバコと歯周病の関係を考えてみます。
歯科衛生士からの質問がきっかけに
「患者さんに『アイコスに替えたら歯ぐきにはいいんですか』って聞かれたら、どう答えたらいいんですか」
今年入職した歯科衛生士が、診療の合間にこう聞いてきました。実際に聞かれたのではなく、聞かれたら答えられないと思ったそうです。衛生士は歯周病の患者さんと向き合う時間が長く、タバコの話題に触れる場面も多い仕事でしょう。いずれ必ず出てくる質問です。
当院では、治療の合間に気になったことを、衛生士と歯科医師のあいだでちょくちょく共有しています。中にはすぐに答えられない問いもあり、私自身の勉強になることも少なくありません。
今回の質問もその一つでした。加熱式タバコが日本で広まり始めてから十年ほどが経ちますが、歯周病への長期的な影響については、まだ十分な研究が蓄積されているとはいえません。
そこで、国内外の研究をあらためて読み直しました。
加熱式タバコと紙巻きタバコは何が違うのか
紙巻きタバコは、タバコ葉を燃焼させて発生する煙を吸い込みます。一方、アイコスなどの加熱式タバコは、タバコ葉を加熱し、発生したエアロゾルを吸い込む仕組みです。
加熱式タバコでは、紙巻きタバコと比較して、一部の有害物質への曝露が少なくなることが報告されています。
ただし、ここで区別しておきたいことがあります。
有害物質への曝露が減ることと、歯周病などの病気になるリスクが減ることは、同じではありません。
加熱式タバコにもニコチンなどの成分が含まれており、有害物質がすべてなくなるわけではありません。
では、実際に歯周病の治療結果には違いがあるのでしょうか。
加熱式タバコと紙巻きタバコ——歯周治療の結果を比べた日本の臨床試験
この問いにもっとも近い研究は、日本で行われています。
2022年に発表された研究では、国内26の歯科医院で、歯周炎のある喫煙者172人を紙巻きタバコを続ける群と加熱式タバコに切り替える群に無作為に振り分けました。歯石や歯根表面の汚れを取り除く治療(SRP:スケーリング・ルートプレーニング)を行い、6か月後の状態を比較したものです。(1)
結果は、どちらの群も歯周ポケットが平均で約1mm浅くなり、両者の改善量に統計学的に有意な差は認められませんでした。
加熱式タバコに替えた人では、尿中に出る一部の有害物質への曝露を示す指標が大きく下がっていた一方、ニコチンへの曝露は大きく変わっていません。
つまり、一部の有害物質への曝露が減少しても、今回の研究では、6か月後の歯周治療の結果に明確な差は確認されなかったことになります。
ただし、「統計学的に有意な差がなかった」ことは、「効果がまったくない」と証明されたことではありません。研究期間は6か月であり、長期的な影響まで明らかになったわけではないためです。
この研究を読むときに押さえておきたい点が二つあります。
一つは、資金を出し研究を行ったのが、加熱式タバコの製造元であるフィリップモリス社だということ。
もう一つは、主要な比較が最初に振り分けた群ではなく、実際に何を吸っていたかで分け直した集団で行われている点です。無作為に振り分けた利点は、そのぶん薄れる可能性があります。
資金提供元や解析方法だけで研究結果を否定することは適切ではありませんが、こうした背景も踏まえて慎重に解釈する必要があります。
少なくとも、この研究から「加熱式タバコに替えれば歯周病の治りが良くなる」とは言えません。
加熱式タバコの利用者と歯周病——日本の大規模調査が示すこと
もう少し広い集団ではどうでしょうか。
日本人10,439人を対象にしたインターネット調査では、加熱式タバコだけを使っている人も、まったく吸わない人に比べて歯周病があると答える割合が高い傾向でした。(2)
年齢などの要因を統計学的に調整した解析でも、加熱式タバコの使用と歯周病の自己申告との関連が報告されています。
紙巻きタバコだけの人、両方を併用している人、過去に吸っていた人でも同様の傾向が認められています。
ただし、これは一時点の調査で、歯周病の有無も本人の申告によるものです。
加熱式タバコが歯周病を引き起こしたと言える研究ではありません。過去の喫煙歴や生活習慣などが結果に影響している可能性もあります。
わかるのは、加熱式タバコを使用している人の歯ぐきが、吸わない人と同じ状態にあるという裏付けは得られていない、というところまでです。
紙巻きタバコと加熱式タバコの併用と重度歯周炎
切り替えたつもりでも、紙巻きタバコと加熱式タバコを両方使い続ける方もいます。
毎日紙巻きタバコを吸っていた歯周病のある193人を2年間追った日本の研究では、併用に移った人で重度の歯周炎になるリスクが下がるという結果は見られませんでした。(3)
紙巻きタバコの使用量が多い併用群では、むしろ重度歯周炎との関連が強い傾向が報告されています。
もっとも、併用に移った人はそれぞれ8人と7人しかいません。
ここから「併用すると歯周病が悪化する」と結論づけるには無理があります。
言えるのは、併用によってリスクが下がるという結果も出ていない、ということです。
加熱式タバコは禁煙の助けになるのか
いずれやめるための一歩として加熱式タバコに替えた、という方もいらっしゃるでしょう。
日本の7,044人を2019年から2021年まで追跡した調査では、加熱式タバコの使用が紙巻きタバコの禁煙につながるという関連は見られませんでした。(4)
一部の集団では、禁煙しにくい傾向や、いったんやめた人の再喫煙との関連も報告されています。
ただし、この研究は観察研究であるため、加熱式タバコが禁煙を妨げたと断定できるわけではありません。
現時点では、加熱式タバコへの切り替えを、禁煙のための確立された方法として勧める根拠は十分ではないと考えられます。
禁煙と歯周病治療——研究が示す効果
一方、禁煙については比較的はっきりしたデータがあります。
禁煙の効果を調べた研究を統合した解析では、禁煙によって歯周病の発症や進行のリスクが下がって吸わない人に近づき、歯周治療の結果も良くなる可能性が報告されています。(5)
ただし、統合できた研究は6件で、数は多くありません。また、禁煙によってすべての方の歯周病が改善すると保証するものでもありません。
ここで一つ、知っておいていただきたいことがあります。
禁煙は歯周病の進行を抑え、治療の効果を高めるうえで大切ですが、すでに失われた歯槽骨や歯周組織が、禁煙だけで元どおりに戻るわけではありません。
歯周病の状態に応じた治療や、定期的なメンテナンスを続けることも重要です。
本数を減らすことについては、それだけで歯ぐきへの影響がどこまで小さくなるのか、はっきりしたデータがありません。
喫煙者17人と小さな研究ながら、少ない本数の喫煙を20年続けた人では、吸わない人に比べて歯周組織の破壊が速く進んだという報告もあります。(6)
少ない本数なら歯ぐきへの影響がない、と考えることは適切ではありません。
加熱式タバコと歯周病——新人の質問への答え
ここまでを踏まえて、彼女にはこう伝えました。
加熱式タバコに替えれば歯ぐきは安心、と言えるだけの根拠は今のところ見当たりません。
かといって、紙巻きタバコとまったく同じだけ害があると断定できるデータも、まだ揃っていない状況です。
加熱式タバコに替えた方や本数を減らした方は、それだけ体のことを気にかけている方だと思います。
その努力を無駄だと言うつもりはありません。
ただ、研究で歯ぐきへの効果がよりはっきり示されているのは、タバコをやめることのほうです。
患者さんにお伝えするときも、この順番が誠実だと考えています。
わかっていることとわかっていないことを分けて説明し、そのうえで禁煙という選択肢を示す。
衛生士とも、そう話し合いました。
名古屋市昭和区で歯周病治療・専門医への相談をお考えの方へ
加熱式タバコを使っている方も含めて、歯ぐきのことで気になる点があれば一度ご相談ください。
歯科アイノ(名古屋市昭和区)
⸻
※本記事は2026年10月時点で公表されている研究をもとに作成しています。紹介した研究結果は集団としての傾向を示したものであり、個々の方に同じ結果が得られることを保証するものではありません。また、一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の診断や治療方針に代わるものではありません。
参考文献
(1)Pouly S, et al. Effect of switching from cigarette smoking to the use of the tobacco heating system on periodontitis treatment outcome: Periodontal parameter results from a multicenter Japanese study. Front Dent Med. 2022;3:915079.
https://doi.org/10.3389/fdmed.2022.915079
(2)Yoshioka T, Tabuchi T. Combustible cigarettes, heated tobacco products, combined product use, and periodontal disease: A cross-sectional JASTIS study. PLoS One. 2021;16(3):e0248989.
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0248989
(3)Shiota C, et al. Switching from cigarette use to dual use with heated tobacco products and severe periodontitis risk. Front Oral Health. 2026;7:1765902.
https://doi.org/10.3389/froh.2026.1765902
(4)Odani S, et al. Heated tobacco products do not help smokers quit or prevent relapse: a longitudinal study in Japan. Tob Control. 2024;33(4):472–480.
https://doi.org/10.1136/tc-2022-057613
(5)Leite FRM, et al. Impact of smoking cessation on periodontitis: a systematic review and meta-analysis of prospective longitudinal observational and interventional studies. Nicotine Tob Res. 2019;21(12):1600–1608.
https://doi.org/10.1093/ntr/nty147
(6)Schätzle M, et al. Clinical course of chronic periodontitis: effect of lifelong light smoking (20 years) on loss of attachment and teeth. J Investig Clin Dent. 2010;1(1):8–15.
https://doi.org/10.1111/j.2041-1626.2010.00008.x
