歯周病と糖尿病の関係——研究データからわかること
名古屋市昭和区・歯科アイノ監修 ※本記事は国内外の学術論文をもとにした一般的な情報提供を目的としています。治療効果を保証するものではなく、症状・効果には個人差があります。
この記事の要点(3行まとめ)
- 歯周病と糖尿病は、双方向に関連する可能性があると多くの研究で報告されています。
- 海外の臨床試験(コクランレビュー)では、歯周治療を受けた群でHbA1cが平均0.43%低かったという結果が報告されています(中等度の確実性)。
- ただし歯周治療は糖尿病の治療そのものではありません。内科の治療と並行して考えるべき問題です。
目次
- 歯周病と糖尿病はどう関連するのか
- 歯周治療とHbA1cの関係——海外の臨床試験が示すこと
- 日本の診療データで見えてきたこと
- 歯周病と糖尿病が重なったとき
- 歯周病治療は糖尿病の治療ではありません
- よくある質問(FAQ)
- 名古屋市昭和区で歯周病のご相談をお考えの方へ
- 参考文献
1. 歯周病と糖尿病はどう関連するのか
内科にきちんと通院し、処方薬も服用し、食事にも気をつけている。それでもHbA1cの数値が思うように下がらない——そう感じている方は少なくありません。
一方で、健診の際に「歯ぐきに炎症がある」と指摘された経験を持つ方も多いはずです。痛みがないために、対応が後回しになりがちです。この二つを、まったく別の問題として捉えている方によくお会いします。
歯周病と糖尿病が互いに関連する可能性は、これまで多くの研究で報告されています。双方向の関係が指摘されることもあります。以下では、国内外の研究データをもとに、現時点でどこまでわかっているのかを整理します。数字の読み方も含めて、できるだけ正確にお伝えします。
血糖コントロールが良くない状態が続くと、歯ぐきに炎症が起こりやすくなる——これは以前から知られてきました。近年あらためて注目されているのは、その逆方向の関連です。歯周組織の炎症が長期間続くことが、血糖の状態に影響する可能性が指摘されています。
日本人を対象にした調査もあります。企業に勤める572人を9年間追跡したもので、開始時点で肥満・高血圧・脂質異常・高血糖のいずれも認めない人のみを対象としています。追跡の結果、歯周ポケットのある状態が6年以上続いた群では、ポケットのなかった群と比べて高血糖・肥満・高血圧の発症が多い傾向が報告されました(文献1)。
もともと代謝の状態が正常だった人を追跡した研究であるため、時間的な前後関係が比較的明確である点に意味があります。ただし、これは観察研究です。「歯周病が原因で高血糖になる」ことを直接証明したものではない、という点にはご留意ください。
2. 歯周治療とHbA1cの関係——海外の臨床試験が示すこと
では、歯周病を治療すると血糖の指標は変化する可能性があるのでしょうか。この問いを検証するため、世界中の臨床試験を集めて統合的に評価した報告があります。
医療の効果を厳密に検証する国際的な研究グループ、コクラン共同計画がまとめたレビューです。2022年に更新された版では、35件の臨床試験・合計3,249人が、歯周治療を受ける群と受けない群にランダムに割り付けられました。無作為割り付けというこの手法によって、「もともと健康意識の高い人が歯科にも通っているだけではないか」という交絡要因の影響を、ある程度取り除くことができます。
このうち、治療から3〜4か月後のHbA1cを比較できた30件の試験・2,443人分を統合した結果、歯周治療を受けた群のHbA1cは平均0.43%低いという値が報告されました。エビデンスの確実性は中等度と評価されています(文献2)。6か月後については12件の試験・1,457人分で検討され、0.30%の差が報告されています。
こうした数字を見るときにまず確認すべきは、対象人数の内訳です。35件・3,249人はランダム割り付けされた人数の合計であり、0.43%という値そのものを支えているのはそのうち30件・2,443人です。同じレビューの中でも、どの数値が何人分のデータに基づくかは項目ごとに異なります。
別の研究グループも、6か月以上追跡した12件の臨床試験を統合して検討しています。このうち11件・1,374人分を統合した解析では0.29%の差が報告されました(文献3)。ただし、この12件はいずれもバイアスのリスクが低いとは判定されておらず、研究者自身がその限界を明記しています。
補足:これらの数値はあくまで海外の臨床試験を統合した結果であり、当院での治療実績を示すものではありません。**個人の血糖状態や歯周病の重症度によって、実際の変化は異なります。
3. 日本の診療データで見えてきたこと——歯周病の管理と医療費
海外の臨床試験と同様の傾向が、日本の保険診療データでも見られるのでしょうか。この点も確認しておきたいところです。
日本の大規模な診療報酬データを用いた研究があります。2型糖尿病の4,279人が対象で、そのうち957人が歯周治療を受けていました。分析の結果、治療前のHbA1cが7.0〜7.9%だった層では、歯科を受診しなかった人と比べて1年後の数値が良好だったと報告されています。その差は0.094%でした(文献4)。
正直なところ、決して大きな数字ではありません。ただし、変化の方向としては先述のコクランレビューと一致しています。
医療費に着目した研究もあります。ある県の診療報酬データから2型糖尿病の16,583人を抽出し、歯周病の管理を毎年受けていた群とそうでない群を比較したものです。毎年管理を受けていた群では3年目の年間医療費が4%少なく、入院やインスリン導入の頻度にも差が見られたと報告されています(文献5)。ただし、この4%という差は統計的な幅を考慮すると「差がない」とも解釈できる境界的な結果であり、過大に受け取らないことが重要です。
4. 歯周病と糖尿病が重なったとき
両方の病気が重なった場合を調べた研究も、日本から報告されています。790人を対象に1年間の医療費を比較したもので、平均年齢は63.1歳でした。
歯周病も糖尿病もない群を基準とすると、両方がある群では年間医療費が約1.31倍だったと報告されています(文献6)。一方、歯周病はあるが糖尿病のない群は1.01倍にとどまり、基準となる群との統計的な差は認められませんでした。
この研究で医療費の明確な増加が確認されたのは、二つの病気が併存している群です。糖尿病の治療を受けている方にとって、歯ぐきの状態は無関係な問題ではない可能性がある、ということになります。
5. 歯周病治療は糖尿病の治療ではありません
ここまで研究データを紹介してきましたが、重要なことをお伝えします。歯周病の治療は、
HbA1cの0.43%にしても0.094%にしても、内科で処方される薬剤の効果に置き換えられるような大きさではありません。「歯周治療を受けたから内科の薬を減らしてよい」という話には一切なりません。ここを取り違えると、かえって健康を損なうおそれがあります。
そのうえでお伝えしたいのは、歯科と内科をまったく切り離して考える必要もない、ということです。日本歯周病学会は『糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン』を編纂しており、2023年に改訂第3版が発行されています。糖尿病のある方への歯周治療の進め方が、独立した診療上の課題として整理されています。専門の学会が正面から取り上げるほどには、両者は隣り合った問題であるとお考えください。
よくある質問(FAQ)
Q. 歯周病を治療すれば糖尿病が治りますか? A. いいえ。歯周治療は糖尿病そのものの治療ではありません。研究では血糖値の指標(HbA1c)にわずかな改善が報告されていますが、内科治療の代わりになるものではなく、あくまで内科治療と並行して考えるべきものです。
Q. HbA1cはどのくらい改善する可能性がありますか? A. 海外の臨床試験を統合した報告では、治療後3〜4か月で平均0.43%、6か月で0.29〜0.30%程度の低下が報告されています(文献2・3)。ただし個人差があり、必ずこの数値が得られるわけではありません。
Q. 歯科を受診する際、糖尿病の情報は伝えたほうがよいですか? A. はい。直近のHbA1cの値がわかるもの(お薬手帳や内科の検査結果用紙など)をお持ちいただくと、治療の進め方や間隔を血糖状態に合わせて調整でき、必要に応じて内科の主治医と連携することも可能です。
Q. 歯ぐきの症状がなくても糖尿病の人は歯科を受診すべきですか? A. 歯周病は自覚症状が出にくい病気です。健診で指摘があった場合や、糖尿病の主治医から受診を勧められた場合は、症状の有無にかかわらず一度ご相談いただくことをおすすめします。
名古屋市昭和区で歯周病治療・専門医への相談をお考えの方へ
糖尿病で通院されている方に、一つだけお願いがあります。歯科を受診される際は、直近のHbA1cの値がわかるものをお持ちください。お薬手帳でも、内科でもらった検査結果の用紙でも構いません。
血糖の状態がわかると、歯周治療の進め方を調整できます。処置の内容や間隔を血糖状態に合わせて検討でき、必要に応じて内科の先生と連携することも可能です。情報がないままだと、手探りでの対応にならざるを得ません。
- 歯ぐきからの出血が続いている
- 健診で歯周病を指摘された
- 糖尿病の主治医から歯科受診を勧められた
このような方は、一度ご相談ください。
歯科アイノ(名古屋市昭和区) https://www.aino-dental.com/
参考文献
- Morita T, et al. Association Between the Duration of Periodontitis and Increased Cardiometabolic Risk Factors: A 9-Year Cohort Study. Metab Syndr Relat Disord. 2016;14(10):475-482. https://doi.org/10.1089/met.2016.0018
- Simpson TC, et al. Treatment of periodontitis for glycaemic control in people with diabetes mellitus. Cochrane Database Syst Rev. 2022;4:CD004714. https://doi.org/10.1002/14651858.CD004714.pub4
- Oliveira VB, et al. Effect of subgingival periodontal therapy on glycaemic control in type 2 diabetes patients. J Clin Periodontol. 2023;50(8):1123-1137. https://doi.org/10.1111/jcpe.13830
- (原文中の文献4:日本の診療報酬データを用いた研究。出典情報をご確認のうえ正式な書誌情報を追記してください)
- (原文中の文献5:都道府県診療報酬データを用いた医療費研究。出典情報をご確認のうえ正式な書誌情報を追記してください)
- (原文中の文献6:歯周病・糖尿病併存に関する医療費研究。出典情報をご確認のうえ正式な書誌情報を追記してください)
本記事は学術論文をもとにした一般的な情報提供を目的としており
